和平
2026.10.15

経理担当が見る取引を『約2割』に保つ作り方。AIを使う場面を絞って、安く安定させる

前の記事「顧客か専門家に聞く。それが、AI時代の人の仕事になる」で書いた、専門家の判断をAIに渡す仕事を、和平の経理でやった記録です。

要約

経理にAIを入れる形は、過去の仕訳から学んだAIが科目の候補を出し、人が確認する、というものが多いようです。人が見ずに通す分があっても、その根拠はAIの確からしさです。和平の経理は、通す根拠が違います。科目や税区分を決める判断を先に書き出し、ルールで決まるものを先に抜いています。AIを使うのは、読み解きが要る場面だけなので、運用は安く、安定します。直近の期の取引に当てると、約8割は経理担当が見なくて済みます。残りの約2割は、理由のついた質問として担当者に届き、答えは判定書に入って、次からは決まります。この記事は、その考え方と作り方です。

判断を書き出して問いに当てると、取引の約8割は人が見なくて済む

記帳では、freeeから取った明細を1件ずつ、上から順に問いに当てます。この問いの並びを、決定木と呼んでいます。当たったところで科目と税区分が決まり、そこから先は人が見ません。

問いは、たとえば次のものです。

  • 口座の間の移動か、カードの引き落としか
  • 売掛金の入金や、給与の支払いと、相手と金額が合うか
  • 固定費の支払いか。予定表の相手と金額が合う
  • 相手が、インボイス登録を確かめた仕入先か
  • 過去に同じ相手と同じ摘要で、同じ答えが2回以上続いているか

直近の期の取引に当てると、約8割がこの問いだけで決まりました。この8割には、口座の移動や固定費のように、もともと型の決まった取引も含まれます。

問いの下には、判定書があります。直近2期の仕訳帳を全部読み、実際に使われた科目と税区分の組み合わせを洗い出しました。約150通りあります。1つずつに、なぜその科目と税区分になるのかを、条文、税理士の回答、担当者の判断のどれかで書いてあります。

過去の記帳を手本にして、AIに真似させる手もあります。ただ、過去の記帳は、何が起きたかの記録で、どう処理すべきかの根拠ではありません。直近の期の記帳にも、判定書に照らすと誤りだったものがいくつもありました。真似させれば、その誤りも写します。制度が変わったときも同じで、過去の仕訳から学ぶ方式は、改正前の区分を出し続けるおそれがあると指摘されています。だから、先に判断を書き出しました。前例を使うときも、判定書で読み替えてから使います。

残りの約2割は、理由のついた質問と下書きで担当者が決める

どの問いにも当たらなかった取引は、決定木が理由をつけて質問に回します。新しい未記帳が出た日の朝だけ、Slackに番号つきの質問が届きます。「1-1 飲食代、何人?」のような形です。科目の候補がつくものは、下書きとして並びます。担当者は、質問と下書きを見て、答えを返します。

質問になるのは、摘要と金額に答えが無いものです。飲食の人数、初めての相手、役員との精算などです。どれも、AIに読ませても決まりません。

決まっていないものを、勝手に決めることはしません。自動で帳簿に登録してよいのは、決定木で決まったものだけです。質問への返事は、判定書か台帳に書き足します。次に同じ取引が出たときは、決定木の問いに当たって、質問なしで決まります。

2割は、テストが赤くなるたびに判定書を足して保つ

判定書にも問いにも、一度作れば正しいという保証はありません。新しい種類の取引は出ますし、法律も、相手の登録も変わります。そこで、変わったことが、赤いテストで見えるようにしてあります。

テストは、いま約1,100本あります。8割の側を見張るものは、たとえば次のとおりです。

  • 判定書に無い科目と税区分の組み合わせが帳簿に出たら、赤になる。判定と根拠を書くまで赤のまま
  • 摘要だけで決める問いは、額が前例の最大の3倍を超えたら使わず、質問に回す
  • 給与の振込は、給与明細の差引支給額と1円まで合うものだけ消し込む
  • 請求書の登録番号が、見つけてから7日経っても台帳に無ければ、赤になる
  • 仕入先の登録は、確かめてから一定の日数が過ぎると、赤になる

赤は、壊れたという意味とは限りません。「やることが来た」という合図です。判定書に1行足して根拠を書くと、赤は消え、次からは決定木で決まります。間違えたものは、消さずに訂正として残し、次の見張りにします。

決める仕事は関数に、AIは読み解きだけに任せるから、安く安定する

同じ明細を入れたら、毎回同じ答えが返ってほしい判定があります。給与の振込を明細と合わせる、税金の期限を過ぎていないか見る、入金を消し込む。こうした判定は、関数とテストで書けます。AIに読ませると、同じ入力でも答えがぶれることがあり、読ませるたびに費用もかかります。

Claude Codeには、スキル(AIに渡す手順書と資料の束)を持たせられます。ただ、決める仕事はスキルに任せません。スキルは知識を渡す箱で、決める箱は関数です。

AIに任せるのは、読み解きが要るところだけです。落ちたテストの理由を読んで、次の一手に訳す。税理士への質問の文面を作り、誤解なく読めるかを確かめる。判定書に無い取引の案を出す使い方もありますが、帳簿に登録する元にはしていません。AIは提案までで、帳簿を書き換えるのは、担当者が確定してからです。AIに渡すときも、法律を全部は渡しません。決定木で決まらなかった理由ごとに、開く条文のファイルが決まっていて、その判定の手順だけを渡します。

ここで言う安さは、毎日の運用の安さです。作るときには、AIをたくさん使っています。毎回AIに全件を読ませる形と比べて、運用について構造から言えるのは次の3つです。

  • 答えがぶれない:8割は関数で決まるので、同じ入力から同じ答えが出る
  • AIの利用料がかからない:8割は、AIを呼ばずに決まる
  • 壊れたら、テストで気づける

freeeには、自動登録の機能もあります。画面で見てポチポチ設定できる規模なら、それで足ります。私は、その設定を保つのが面倒で、判断を書き出してテストにしました。

自社でやるなら、1か月分の仕訳から組み合わせを洗い出す

順番は、次のとおりです。

  • 過去の仕訳から、科目と税区分を決める判断を書き出す
  • 変わる事実を、確かめた日と一緒に1か所に集める
  • ルールで決まるものを、決定木とテストにする
  • 残りは、理由つきの質問にして、担当者が決める
  • 間違えたら、その間違いを次の見張りにして、1に戻る

最初の一歩は、1か月分の仕訳から、科目と税区分の組み合わせを洗い出すことです。1か月分でルールまで書き切れるとは限りません。見えるのは、毎月出る型と、その数です。年に1回しか出ない型は、1か月分には出てきません。和平は2期分を読んで、古いほうの期にしか出ない型が約30通り見つかりました。1か月分で量の見当を付けて、期を広げて足していきます。

和平の経理は、freeeのAPIとGitHub Actionsで、毎朝回しています。この事例は小さな会社の経理です。

自社の経理をこの形で回したい、というご相談があれば、お声がけください。最初のご相談では、御社の帳簿から、判断を書き出せそうなところを一緒に洗い出します。


ここから先は付録です。本文の根拠を、もう少し詳しく書きます。

判断の正は、条文、税理士の回答、判定書の順に引き、過去の記帳は正にしない

本文1つ目の節の「人が見なくて済む」が成り立つ理由です。

判断に使うデータには、どれを正とするかを決めています。正は2本に分けます。

事実の正は、何が起きたかです。銀行の明細、領収書や請求書、契約書、給与明細がここに入ります。過去の記帳のうち、いつ、誰に、いくら払ったかという取引そのものも事実です。数字は、必ずこの一次データで裏を取ります。

判断の正は、それをどう処理するかです。こちらには順番を付けています。

  • 条文と通達
  • 税理士の回答
  • 判定書
  • 過去の記帳で付けた科目と税区分。判定書を作る材料で、どの行に当たるかを探す手がかりにはなるが、正ではない

あわせて、約束を3つ決めています。

  • 根拠を書けない判断はしない。書けなければ、担当者に回す
  • 条文と税理士の回答が食い違ったら、自分では決めない。両方を並べて、担当者に回す
  • 日付で決まるものは、取引の日で引く

決定木もAIも、この2本の下で動きます。下のものは上を引いて判断し、上を書き換えません。

法律もデータにして見直す日を付け、AIには手順だけを渡す

本文3つ目と4つ目の節を支える部分です。

判断の根拠になる法律も、データとして持っています。消費税、インボイス、法人税、源泉、社会保険、届出、税務調査まで、約20本のファイルに分けました。

  • 入口に分かれ道の表を置く。取引の種類から、開くファイルが決まる
  • 今期に効く数値は、早見表にまとめる。判定書の根拠の欄には、条文と通達の番号を書く
  • 改正で変わるものは、施行の日で切り替える。インボイスの経過措置なら、控除できる割合が取引の日で変わる
  • どのファイルにも、次に見直す日を書く。毎年4月1日の税制改正の施行に合わせ、過ぎると赤になる

変わる事実も、同じ作りです。たとえば、相手がインボイスに登録しているかは、公表サイトで確かめた登録の日と取消の日を1か所に書き、取引の日で引きます。確かめた日も書いておき、一定の日数が過ぎると、赤になります。

税金と労務の期限は、GitHubのイシュー(課題を1件ずつ管理する機能)で持ちます。期限を過ぎて開いたままのイシューがあると、これも赤になります。

経理は、freee・GitHub Actions・Claude Codeの上で回している

本文4つ目と5つ目の節を支える部分です。

材料はfreeeにあります。会計、人事労務、請求書の3つのAPIから、取引、口座の明細、給与明細、請求書を取ってきます。取ってきたデータと経理の決め事は、すべて1つの非公開のリポジトリに置いています。設定ファイル、文書(判定書、税理士への質問の台帳)、テストです。

freeeを読み書きする処理は、GitHub Actionsで動かしています。毎朝データを取り、ダッシュボードを作り直します。新しい未記帳の明細が出た日だけ、Slackに知らせが届きます。帳簿に書き込む処理は、まず試しに流して結果を出し、担当者が見てから本番で流します。ダッシュボードは、Cloudflare Pagesで配信し、見られる人を限っています。

Claude Codeには、役目を持たせています。資金繰りの番人、税理士の数字の検算、税理士とのやりとりの準備、記録の4つです。やらないことも決めています。決めること自体と、freeeや役所の手続きを自分で実行することと、頼まれていない社外への文面です。Claude Codeが何かを直すときは、変更をプルリクエスト(変更の提案)で出し、担当者が承認してから入ります。

スキルにするものと、しないものは、中身の種類で分けています。ルールで決まるものはプログラムとテストに、変わる事実は設定ファイルに、判断と根拠は判定書に置きます。スキルにするのは、読み解きが要る知識と、手順の順番です。スキルは、知識と手順を分けて持ち、どのスキルにも、使う場面と、使わない場面を書いています。

← 記事の一覧へ