円で扱えないものを、独自通貨は扱えたか。コミュニティ通貨の取引ログ8,039件の分析
株式会社和平が提供していたコミュニティ通貨サービス「civicship」は、導入先の内製化にともない、2026年9月に終了しました。この記事では、約1年3か月分の取引ログを、数字で振り返ります。サービスを作った背景や、終えての振り返りは、「コミュニティ通貨アプリを閉じて」にまとめました。
civicshipは、LINEの中で、地域の活動に関わった人に通貨を贈り、受け取った通貨を次の誰かに渡せる仕組みです。導入先のコミュニティの皆さんが、この先の運営を考えるときの材料になればと思い、数字を残します。
最初に、感謝を。civicshipを使い、この実験に一緒に取り組んでくださったコミュニティの皆さんに、心から感謝します。
civicshipの開発と四国での実証の一部は、Cardanoのコミュニティ助成プログラム「Project Catalyst」のFund 12に採択された提案「Creating social implementation use-cases of Cardano in the Shikoku region, Japan」の助成を受けて行いました。また、四国全域で行った「NEO四国88祭」では、主催の共創DAO合同会社をはじめ、四国各地の自治体や事業者、地域団体の皆さんにご協力いただきました。ありがとうございました。
※示す数字は取引ログにもとづくもので、相関であって因果を示すものではありません。
この実証の問いは、円で扱えないものを、独自通貨は扱えたか、です。円で扱えないものを扱う通貨(いわゆる補完通貨)として始めたcivicshipの取引ログから、読み取れる範囲を示します。
使われ方の中心は、食べものやもてなしへのお礼(集中型40%、分散型30%)で、円でも済むものでした。円では値段が付きにくい、気持ちを伝えるだけの贈与も2割弱ありました(20%と17%)。分散型では、畑や環境の手入れに最も高い値段が付いていました。人から人へは通貨が回り、事業者が受け取った通貨は滞留していました。何が円で扱えないものかの仕分けは、本稿の見立てです。
1. civicshipの全体像
- 期間:2025年6月〜2026年9月(約1年3か月)
- 登録した人:1,707人(運営の管理用アカウントを除く)
- コミュニティ:8(うち、通貨の取引があったのは6)
- 取引:8,039件
- 取引に参加した人:延べ1,469人(複数のコミュニティで取引した人は重ねて数えています)
このうち、分析に十分な規模があった2つのコミュニティを比べました。お金の流れ方にちなんで、「集中型」「分散型」と呼びます。
- 集中型:2025年7月〜2026年9月、取引4,705件、メンバー716人、仲間同士の贈与1,550件
- 分散型:2025年10月〜2026年9月、取引2,763件、メンバー534人、仲間同士の贈与1,777件
どちらのコミュニティにも「コミュニティの財布」と「メンバーの財布」があります。運営がコミュニティの財布からメンバーへ配るものを「公式の配布」、メンバーがコメントを添えてほかのメンバーに贈るものを「仲間の贈与」と呼びます。コミュニティの管理者が個人として贈ったものも含み、ごく一部(集中型で3%、分散型で1%ほど)は飲食などへのお礼に使われていました。すべての取引は改ざんできない形で記録され、通貨は円に換金できません。
本稿では、メンバー同士の贈与を「人から人」(P2P)、店や宿、運営法人といった事業者へのお礼を「人から事業者」(P2B)と呼びます。
分析では、個人名は扱わず、財布のIDだけで集計しました。2つのコミュニティのコメント約5,700件は、何へのお礼だったかで分類しています。
2. 主な結果
1. 人から人へは、贈られた人が次の人へ贈る形で回っていた
初めて仲間から贈られた時点でまだ贈ったことがなかった人のうち、その後に自分も贈った人は45〜49%。公式の配布しか受け取っていない人の2.4〜3.6倍でした。使い始めた時期と公式の配布の回数をそろえて比べ直しても、2.3〜2.4倍の差が残りました(ただし集中型は人数が少なめです)。お返しがなかった組の57〜67%で、受け取った人は別の誰かに贈っていました(4・8章)。
2. 回していたのは、配る役割を持つ一部の人だった
贈ったことがある人は、メンバーの27%(集中型)と37%(分散型)でした。上位5%の人が贈与の8割を占め、新しく来た人への最初の贈与も、9割前後は同じ上位5%の人から届いていました。公式の配布を多く受け取った上位10人のうち8人は、仲間に多く贈った上位10人にも入っていました(4・6章)。
3. 人から事業者へ渡った通貨は、事業者の手元で滞留した
事業者と見受けられる6者のうち4者は、受け取った通貨の9割近くかそれ以上を手元に残していました。残高の多い2者は、メンバーの残高の中央値(約1,000pt)の約110倍と約470倍を抱えていました。集中型では、メンバーが出した通貨の42%(金額ベース)が、お礼として運営側の財布に戻り、仲間には回りませんでした。分散型では、運営に戻すような使い道はほとんどなく、ほぼすべてが仲間の手に渡っていました(5章)。
4. 運営から大口を受け取った人も、集中型ではほとんど回さなかった
運営から受け取った大口の通貨(8,000pt以上)が30日以内に仲間へ回った割合は、中央値で集中型が4%、分散型が23%でした。分散型で、運営が中心メンバーに定期的に渡した通貨は、中央値64%が30日以内に仲間へ回っていました(5・6章)。
5. 仲間が付けた値段は、畑や環境の手入れで高く、食やもてなしで低かった
分散型では、畑や環境の手入れへの贈与が1回2,000pt、食やもてなしへの贈与は500pt(中央値)でした。金額の3件に1件は「39(サンキュー)」を含んでいました(7章)。
6. 贈与は行事の日に集まり、お返しより次の人へ回った
贈与が多かった上位10%の日に、贈与の31%(集中型)と38%(分散型)が集中しました。お返しがなかった組の57〜67%で、受け取った人が別の誰かに贈っていました(8章)。
7. 長い言葉で迎えられても、次の贈与は増えていなかった
長いコメントで迎えられた人の方が、30日以内に自分も贈った割合は低くなりました。ただし件数は少なめです(7章)。
3. 2つのコミュニティは、何をしていた場所か
集中型:共に食べ、泊まり、祭りを支える拠点
最も多かったのは、共同キッチンで出される賄いへのお礼でした(738件)。次に、メンバー同士の飲食(486件)、手作りの食品へのお礼(224件)が続きます。同じ場所で暮らしたり滞在したりする人たちが、毎日の食卓を共にしていたことが読み取れます。
ほかには、宿泊や長期滞在の受け入れ(140件)、地域の芸術祭や竹あかり、追悼行事といった祭り・行事の運営(185件)、来訪者への案内や講演(204件)がありました。養鶏、雑穀の栽培、牡蠣、鹿皮なめしといった一次産業(60件)も小さく続いていました。
分散型:町に開いた暮らしと、みんなで回す運営
最も多かったのは、野菜や魚、ジビエのおすそ分けや手料理といった食の分かち合い(478件)でした。次が、公開で行われる運営ミーティングや地域向けの説明会への参加(411件)です。
ほかには、地元の祭りへの出店や餅つきなどの行事(157件)、家事や修理、相談といった暮らしの手助け(135件)、海岸清掃や草刈り(121件)、視察や体験ツアーの受け入れ(113件)、使われていなかった土地を開墾した農園(84件)、子どもの見守り(34件)がありました。ある海岸では、日付入りの清掃が少なくとも9回確認できます。
通貨は、大きなお金の流れにも使われていた
通貨は日々の感謝だけでなく、運営のお金の流れにも使われていました。
- 集中型:運営法人が持つ施設などの利用、拠点の整備、太陽光設備、Web制作へのお礼として、18件の大口の移転があった。合計は約9,100万ptで、コメント付き取引の通貨総量の85%を占めた。運営を手伝った人への月ごとの手当や、家賃・宿泊費(月3万〜6万pt)へのお礼にも使われていた
- 分散型:運営の中心メンバー5〜8人への月ごとの活動報酬(1人あたり月3万〜3.9万pt)、通貨を使える店を開拓した人への報奨(約155万pt)、法人登記への謝礼としても、通貨が送られていた
つまりcivicshipの通貨は、感謝の記録であると同時に、運営の報酬や施設の利用へのお礼としても使われていました。以下の分析では、金額が大口の移転に大きく左右されるため、主に件数で比べます。
4. 誰が、贈る側に回ったか
仲間から贈られた人ほど、贈る側に回っていた
期間中に一度でも仲間に贈ったことがある人の割合は、次の通りでした。
- 集中型:仲間から贈られたことがある人は59%、公式の配布しか受け取っていない人は14%
- 分散型:仲間から贈られたことがある人は56%、公式の配布しか受け取っていない人は19%
この中には、贈られる前から贈っていた人も含まれます。初めて仲間から贈られた時点でまだ贈ったことがなかった人に限ると、その後に自分も贈った人は、集中型で49%、分散型で45%でした。公式の配布しか受け取っていない人と比べて、3.6倍と2.4倍です。
配り方がまったく違う2つのコミュニティで、同じ傾向が出ました。続けて使うかどうかにも差がありました。サービス終了の90日以上前に使い始めた人で見ると、使い始めて30日以内に仲間から贈られた人のうち、2か月後もまだ使っていた人は集中型で37%、分散型で38%。そうでない人は14%と21%でした。
ただし、仲間から贈られる人は、もともと活発な人なのかもしれません。そこで、使い始めた月と、最初の30日に受け取った公式の配布の回数がそろう人同士で比べ直しました。最初の30日にまだ贈っていなかった人のうち、その間に仲間から贈られた人と贈られなかった人で、31〜120日目に自分も贈った割合は次の通りです。
- 集中型:13%と5%(2.4倍)
- 分散型:23%と10%(2.3倍)
比べ方を変えても、2倍を超える差が残りました。統計的に見ると、分散型の差は偶然では説明しにくい大きさでした。集中型は人数が少なく、偶然の範囲を否定しきれません。
贈る側に回った人が最初に贈った相手は、自分に贈ってくれた人へのお返しが集中型で3割、分散型で2割弱で、残りは別の誰かでした。受け取った人は、お返しよりも、次の誰かに贈ることで動き出していました。
5%の人が贈与の8割を担い、差は最初の30日でつく
メンバー1人あたりが、期間中に仲間へどれだけ贈ったかを見ました。企業でいう「顧客生涯価値(LTV)」を、贈る側から見たものです。
- 平均は意味をなさない:多くのメンバーは登録したきりで、1回も贈っていない。贈ったことのある人は、集中型で27%、分散型で37%だった
- 極端に偏っている:上位5%の人(集中型で36人、分散型で27人)が、仲間への贈与の80%(集中型)と81%(分散型)を占めた。上位1%、わずか5〜7人で、贈与の4割以上になる
- 贈る頻度は低い:贈ったことのある人でも、贈った件数の中央値は2件。30日以上使った人で見ても、月に1件に届かない
- 最初の30日で差がつく:サービス終了の120日以上前に使い始めた人で見ると、使い始めて30日以内に仲間から贈られた人は、期間中に贈った件数が平均8.6件(集中型)と8.7件(分散型)。そうでない人は0.7件と1.1件だった
新しく来た人を迎えるのは、ごく一部の人
仲間から初めて贈与を受け取った人に、その最初の一回を誰が贈ったかを調べました。
- 集中型:204人を49人が迎えていた。上位5人だけで、最初の贈与の47%を占めた
- 分散型:267人を36人が迎えていた。上位5人だけで、最初の贈与の58%を占めた
贈与全体で見たときの上位5人の割合(35%と47%)より、明らかに偏っています。新人を一番多く迎えていた人は、一番多く贈っていた人とは別の人でした。ただし、最初の贈与の87%(集中型)と95%(分散型)は、仲間への贈与が多い上位5%の人からで、迎える人と多く贈る人は大きく重なっていました。迎えた人の上位5人のうち、集中型で2人、分散型で3人はコミュニティの管理者でした。
5. 通貨はどこへ流れたか
集中型
- 運営側の1つの財布が、流れの要になっていた。その財布は、コミュニティの財布から8件の大口の移転(コミュニティの財布から出た金額の91%)を受け取り、メンバーに手伝いの報酬を配り(393件)、メンバーから食事などへのお礼を受け取っていた(1,551件)
- 仲間同士の贈与は1,550件。公式の配布と運営側の財布からの報酬(合わせて1,335件)の1.16倍にとどまった
分散型
- 公式の配布は多くのメンバーに分かれていた(最も多く受け取った人でも金額の9%)
- 仲間同士の贈与は1,777件。公式の配布(674件)の2.64倍に達した
時間の流れで見ると、分散型では、公式の配布の件数が11〜12月の月148件から、春以降は月20〜40件ほどに減りました。ただし配られる通貨の量は、7月まで月26万〜53万ptほど続き、その大きな割合を中心メンバーへの月ごとの報酬が占めていました。仲間同士の贈与は5月に321件まで増え、配布が止まった8月には25件に落ちています(サービス終了に向かう時期とも重なります)。集中型では、配布と贈与がある程度連動して上下していました。
集中型では、お礼の送り先が運営の1か所に集まっていた
集中型では、賄いや家賃、宿泊費へのお礼を通貨で送れました。メンバーが出した通貨のうち42%(金額ベース)は、こうしたお礼として運営側の財布に戻っていました。分散型でも、宿泊や食べものへのお礼を仲間に送る使い方はありましたが、コメントからそう読み取れるものは、仲間に渡った通貨の数%ほどでした。運営に戻すような使い道はほとんどなく、メンバーが出した通貨は、ほぼすべて仲間の手に渡っていました。
大口で受け取った人は、手元に置いていた
運営から受け取った大口の通貨(8,000pt以上)が、その後30日以内にどれだけ仲間へ回ったかを比べると、差ははっきりします。
- 集中型:中央値で4%。多くは受け取った人の手元に留まり、使われた分の一部は食事や家賃へのお礼として運営に戻った
- 分散型:中央値で23%。運営の中心メンバーへの月ごとの報酬(1人あたり月3万〜3.9万pt)では、中央値で64%が30日以内に仲間へ回っていた
集中型では、運営から配られた通貨のうち、期間中に運営へのお礼として戻ったのは1割あまりで、残りの多くはメンバーの手元に留まっていました。受け取った通貨は、仲間に回るよりも、手元に置かれるか、運営に戻っていたことになります。分散型でも、仲間に回ったのは中央値で23%でした。多く回っていたのは、中心メンバーへの報酬のように、配る役割とセットで渡された分です。
事業者の保有通貨は、滞留していた
事業者と見受けられる6者のうち4者は、受け取った通貨の9割近くかそれ以上を手元に残していました。なかでも残高の多い2者は、メンバーの残高の中央値(約1,000pt)の約110倍と約470倍を抱えていました。一方、手伝いを頼む側の2者は、手元に残ったのは3〜6割ほどで、手伝いへのお礼にも使っていました。6者と少なく、事業者かどうかも口座の動きからの見立てです。詳しくは「コミュニティ通貨アプリを閉じて」にまとめています。
滞留したのは、事業者が欲しい使いみちが乏しかったからではないか
事業者の保有通貨が滞留したのは、持っていても価値が上がるものではなく、使える先も乏しかったからではないか、と見ています。事業者にとって、通貨の使いみちは、採用などの事業での使い道か、生活者としての消費しかありません。通貨は円に換金できず、使える先は仲間の暮らしの範囲に限られていました。
人から人は、受け取った人がそのまま次の人に贈れるので、使いみちを用意しなくても、ある程度は回っていました。回っていたのは、配る役割を持つ人と、仲間から贈られた人です。ここまでは推察で、ログだけでは確かめられません。
6. 誰が配り直していたか
この章では、通貨を配る権限がどこにあったか、そして人と人のつながりが誰を通っていたかを見ます。話し合いの場で誰が発言したかといった、記録に残らない力は見えていません。
集中型では1つの財布を通り、分散型では受け取った人が配り直していた
集中型では、配る・受け取る・戻すが、運営側の1つの財布を通って往復していました。
分散型では、公式の配布の多くはコミュニティの財布から直接メンバーに届いていました。そのうえで、中心メンバーへの月ごとの報酬や、海岸清掃や農園といった一部の活動の予算として、まとまった通貨が特定の人に預けられ、その人たちが仲間に配り直していました。コメントには「参加者への付与もこの通貨から」といった言葉が残っています。
名目が報酬でも、受け取った人が配り直していた
コメントから「配るための予算」と読み取れる移転は、分散型でも10件に満たず、読み取り方によって数も結果も変わりました。予算として渡した場合と報酬として渡した場合で、どちらがよく広がったかは、このデータでは判断できません。
一方で分散型では、運営が中心メンバーに定期的に渡していた報酬のうち、中央値で64%が30日以内に仲間へ回っていました。予算という名目がなくても、受け取った人が配り直す役割を担っていたことになります。
集中型は、中心の1つが抜けるとつながりが大きく崩れる
贈与でつながった人の網(運営側の財布への食事などへのお礼を含む)から、最もつながりの多い1つの財布を取り除いてみました。
- 集中型:人と人を結ぶ最短の道のうち78%が、その1つの財布を通っていた。取り除くと、つながりが残るのは63%の人だけで、残りの人は147の小さなかけらに分かれた
- 分散型:最短の道のうち中心を通るのは29%。取り除いても、96%の人がつながったままだった
上位5人が抜けると、つながる人は8割ほどに減る
中心の1つの財布ではなく、仲間に多く贈った上位5人がいなくなったらどうなるかも見ました。運営側の財布を除いた、仲間同士の贈与の網で計算しています。
- 集中型:上位5人が関わった贈与は49%。5人を除くと、つながりが残るのは残りの人の81%(除く前は96%)で、33人が孤立した
- 分散型:上位5人が関わった贈与は60%。5人を除くと、つながりが残るのは80%(除く前は99%)で、58人が孤立した
無作為に5人を除いた場合は、平均で集中型が約95%、分散型が約99%の人がつながったままでした。お金の流れが分散していた分散型でも、仲間同士の贈与は、少数の人に大きく頼っていたことになります。なお、上位5人のうち集中型で2人、分散型で3人は、コミュニティの管理者でした。
それでも、どちらにも「少数の輪」がある
分散型も、全員が対等だったわけではありません。どちらのコミュニティにも、互いに密につながった人の輪が、贈与でつながった人の5%ほど(集中型で21人、分散型で17人。集中型は運営側の財布を含む)ありました。
分散型では、公式の配布を多く受け取った上位10人のうち8人が、仲間に多く贈った上位10人にも入っていました。運営から受け取った人が、それを仲間に配り直していたことになります。集中型では、この重なりは10人中5人でした。
集中型は「1か所に集まる一極型」、分散型は「少数の中心メンバーが回す分権型」です。分散型でも配る役割は一部の人に集まっていましたが、1か所ではなく、何人かに分かれていました。
通貨の偏りは、分散型で少し縮み、集中型ではほぼ変わらなかった
仲間同士の贈与1件ごとに、その時点までに公式の配布を多く受け取っていたのは、贈った側か受け取った側かを比べました。多く受け取っていた人から少ない人への流れは、集中型で61%、分散型で64%でした。
ただし、贈る人と受け取る人の組み合わせをランダムに入れ替えて計算しても、この割合は6割あまりになりました。贈る人の多くが、もともと公式の配布を多く受け取っていた人だったためです。この向きは、偶然でも生じる水準でした。
通貨の偏りは、0(全員が同じ量)から1(1人がすべてを持つ)で表す指標で、分散型では0.91から0.85へ少し縮み、集中型では0.94から0.93とほぼ変わりませんでした。
7. 何に対して贈られたか
一番多いのは、食べものへのお礼
仲間同士の贈与で一番多かったのは、食・もてなしでした。集中型で40%、分散型で30%を占めます。次が、特定の行為を挙げない「楽しかった」「ありがとう」といった気持ち・交流で、それぞれ20%と17%でした。
地域の課題に直結する行為、つまり環境の手入れ、農・一次産業、移動・送迎、子育て・ケアへの贈与は、集中型で10%、分散型で17%でした。
値段が最も高かったのは、畑と環境の手入れ
分散型では、お店や宿へのお礼を除くと、農・一次産業と環境の手入れが1回2,000pt(中央値)で最も高く、食・もてなしと教える・相談が500ptで最も低くなりました。畑を手伝った人や草を刈った人には、ごちそうしてくれた人の4倍の値段が付いていたことになります。集中型では、撮影やデザインといった専門スキルが2,000ptで最も高くなりました。
運営が値段表を決めたわけではありません。値段は、すべて仲間同士の贈与の中で付けられたものです。
畑や環境の手入れは、仲間が最も高い値段を付けた行為です。それなのに件数は全体の1割ほどしかありません。
公式の言葉は「手続き」、仲間の言葉は「体験」
公式の配布のコメントには、「アカウント」「設定」「参加」「活動」といった手続きの言葉が多く出ました。仲間の贈与には、「美味しい」「楽しい」「送迎」「コーヒー」「助かる」といった、体験や体の感覚の言葉が多く出ました。絵文字の入ったコメントは、仲間の贈与では26%(集中型)と41%(分散型)、公式の配布では1〜2%でした。
分散型では、金額の3件に1件が「39」を含んでいた
分散型で最も多く使われた金額は390pt、つまり「サンキュー」です。1,390ptや3,900ptも上位に並び、仲間の贈与の3件に1件が「39」を含む金額でした。集中型では1,000ptや500ptといったキリのいい金額が中心で、「39」を含む金額は4%でした。分散型では、通貨の金額そのものが、お礼の言葉として使われていました。ただし、「39」を含む贈与の6割は、上位3人によるものでした。
長い言葉で迎えられた人ほど、贈る側に回っていなかった
仲間から初めて贈与を受け取った人が、その後30日以内に自分も贈ったかどうかを、最初に受け取ったコメントの長さで比べました。
- 20字以上の長いコメントで迎えられた人:集中型で18%、分散型で21%
- 短いコメントやコメントなしで迎えられた人:集中型で41%、分散型で36%
長く丁寧な言葉で迎えられた人の方が、むしろ贈る側に回っていませんでした。具体的な行為に触れていたかどうかで分けても、一貫した差は見られませんでした。ただし、長いコメントで迎えられた人は集中型では28人と少なく、長いコメントほど贈られた金額も大きいなど、ほかの要因が混ざっている可能性があります。少なくとも、言葉を濃くすれば循環が生まれる、という証拠は得られませんでした。
8. いつ、どう広がったか
贈与は行事の日に大きく増える
贈与が多かった上位10%の日に、集中型で31%、分散型で38%の贈与が集中していました。分散型で最も多かったのは、地元の柑橘を搾るイベントの日で、1日に93件。ビーチクリーンの日と水辺の集まりの日にも、それぞれ55件の贈与がありました。
いつ贈られていたかも違いました。集中型では、曜日を問わず毎日18時台に集中していました。分散型では、昼間に広がり、週末がやや多くなっていました。
お返しは3割ほど。多くは別の誰かに贈った
贈った人から受け取った人への組のうち、受け取った側から贈り返したことがあったのは3割ほどでした。お返しがなかった組のうち、集中型で67%、分散型で57%は、受け取った人が後で別の誰かに贈っていました。贈り合いは、1対1のお返しより、次の人へ回す「恩送り」に近い形で広がっていました。
次に贈るまでは、4〜5日
仲間から贈与を受け取った人が、次に誰かへ贈るまでの時間(中央値)は、集中型で約5日、分散型で約4日で、大きな差はありませんでした。
9. どんな活動が生まれていたか
記録から推定した、活動の中身
活動の中身を、社会的な成果の領域に当てはめました。「確度」は、活動があったことを記録で確かめられたか、効果までは推定か、の度合いです。
集中型
- 食の共有・孤立の予防(確度:高):毎日の賄いと差し入れの文化で、単身の滞在者や来訪者も食卓に加わっていた
- 関係人口・来訪者(確度:高〜中):宿泊や視察、講演で来訪者を受け入れ、「また来たい」という声が複数残っている
- 文化・芸術、記憶の継承(確度:高〜中):地域の芸術祭や竹あかりに人手を送り出し、追悼行事の準備と運営を担っていた
- 一次産業(確度:中):養鶏や雑穀、牡蠣などの小さな生産に人手が入り、採れたものを場の中で食べる循環があった
分散型
- 環境保全(確度:高):複数の海岸での定期的な清掃、月例のごみ拾いジョギング、草刈りの担い手を確保していた
- 一次産業(確度:中):使われていなかった土地を開墾し、初収穫まで進めた
- 市民参加(確度:中):公開の運営ミーティングに、同じ人が繰り返し参加していた(35人で86件の参加)
- 地域行事の担い手、移動支援、子育て(確度:中):祭りの運営に新しい担い手が加わり、送迎や子どもの見守りを互いに担っていた
地域の課題に向いた贈与は、月に数万円分
本稿では規模感をつかむため、仮に1pt=1円として換算します。地域の課題に直結する行為への仲間の贈与を円に置き換えると、集中型で約23万円分(月に2万円弱)、分散型で約85万円分(月に8万円弱)でした(コメント付きの贈与のみで集計)。
いずれも月に数万円の規模でした。
10. 追加で調べるなら
ログから分かるのは、人から人へは回り、事業者が受け取った通貨は滞留していた、というところまでです。なぜ滞留したのかを調べるなら、事業者と見受けられる人に、次のことを聞くのが早そうです。
- 通貨を受け取って、どう感じたか
- この通貨で手に入るなら、何がほしいか
- それは円でも買えるか
円で買えるものしか出てこなければ、独自の通貨を使う理由は薄いと考えています。持っておくのが嬉しいという声が多ければ、欲しい使いみちが乏しかったから滞留した、という見立ては外れます。
11. この分析の限界
比べられたのは、2つのコミュニティだけ
- 十分な規模で比較できたのは2つのコミュニティのみで、文化や人数の違いが結果に影響している可能性がある。集中型の大口の移転には、Web制作などの業者へのお礼も含まれている
- 3つ目に取引が多かったコミュニティ(取引348件)でも、コミュニティの財布へのお礼はなく、仲間同士の贈与は公式の配布の約6.6倍だった。集中型・分散型の違いと同じ向きだが、規模が小さく、比較には加えていない
- 集中型は、もともと人が住み込み、滞在する拠点だった。家賃や食費がかかる場であったこと自体が、通貨の送り先を決めていた可能性がある
数字の数え方と、言葉の定義
- 「登録した人」とコミュニティのメンバー数は登録データから(いずれも運営の管理用アカウントを除く)、「取引に参加した人」は取引に現れた財布の数から数えた
- メンバーの利用開始日は、ログに初めて現れた日で代用している
- 「仲間の贈与」は運営側の財布を除いた取引で、コミュニティの管理者が個人の財布から贈ったものも含む
- 6章の「多く受け取った人」は、公式の配布の受取量で判断した。各自の収入や事情はデータに含まれていない
- 「円で扱えないもの」の仕分けは、本稿の見立てである。食べもの・もてなしは円でも済むもの、気持ち・交流は値段が付きにくいものとして読んだが、ログに元からある分類ではない
- 「大口」は、運営から一度に8,000pt以上を受け取った場合を指す。仲間から贈られた人が通貨をどれだけ手元に残したかは測っておらず、見たのは、その後に自分も贈ったかどうかだけである
- 5章の事業者は、口座の動きから事業者と見受けられた6者で、数が少ない
- 1pt=1円は本稿が規模感をつかむために置いた仮の換算であり、通貨は円に換金できない
財布の区別とコメントの分類には、推定が含まれる
- 運営側の財布は、取引の流れから推定して区別した。「予算として渡された移転」や「何へのお礼か」も、コメントの文面から判断した
- コメントの分類とユースケースの推定は、文面から判断した。無作為に抜き出して確認した範囲では妥当だったが、すべてを1件ずつ確かめたわけではない
示したのは相関で、因果ではない
- 示したのは相関であり、因果ではない。4章では使い始めた時期と公式の配布の回数をそろえて比べたが、それ以外の活発さの違いは残る
- 分散型で2026年8月に贈与が減った時期は、サービス終了に向かう時期と重なっており、配布の停止だけが理由とは言えない
- 9章の「生み出していたもの」は活動があったことを示すもので、効果を測ったものではない